Story
ぐい呑み 「啓蔵虫喰い」が生まれるまで
【050】「釉薬を重ねてかけるむずかしさ」
たっぷりと幾重にも釉薬をかけ、重なった色合いの発色が出た作品は、深みと変化を味わえると思います。
『啓蔵虫喰いぐい呑み 宇宙』(非売品)
は、特に、釉薬を重ねた中でも、技術的に難易度が高いものでしたが思いどおりに発色した作品です。(注1)
この「釉薬を重ねてかける」というのは、大変手間がかかります。
最初の釉薬をかけ、それを完璧に乾かしてから2度目に違う種類の釉薬をかけます。そして、それもまた完璧に乾かして、やっと3度目の釉薬となります。
なによりも「完璧に乾かした上で」次の釉薬をかけませんと、窯で焼成後取り出してみると、どろどろになって水ぶくれができたり、はがれたり(欠落したり)してしまうのです。
同時に、性質の違った釉薬をたっぷりと、しかも厚く重ねるというのは、大変むずかしい作業でもあります。
けれども、たっぷりと釉薬をかけるからこそ「虫喰い(注2)」ができ、複数の種類の釉薬を重ねてかけてあるからこそ「深い発色」が出るのです。
私自身、これまで何度も失敗を繰り返しながらも、「私なりの美」を求めて試行錯誤をしてきました。
それだけに納得のできる作品ができると、本当に達成感があります。
そして、実際に作品を手にとっての(お買い上げ頂いたお客様から)感想を読むと、作家として本当にうれしく、感謝の気持ちでいっぱいになります。
私のこの雑感をご覧になっているのは、(作品を)買って頂いた方だけではなく、陶芸に興味のある方、陶芸を勉強されている方も多いことでしょう。
もしも、そのような方々の参考になるのであれば、と思い、実際に失敗した作品(釉薬が欠落したものなど)をお分けします。
どんな感じになるのかなっているのかを実際に観察するだけでも、今後の陶芸や陶芸作品鑑賞に、なにかしらヒントになれば幸いです。
(注1)この作品は現在、販売終了。
(注2)ぼこっぼこっとあいた穴のこと
(2006.10.10 火曜日)
現在、新しいぐい呑みに取り組んでおります。
たっぷりもったりとした釉薬がかかったぐい呑みは温かい感じを受けますしそれが自分らしい作品だと思っています。
どこにもない、啓蔵らしい独創的な作品を作る、それが私の目標でもあります。
ですが、これまでにも何度か書いているように、長い経験をしても、なかなか思うような色が出ません。いや、うまくいくほうが少ないかもしれません。
今、新しいぐい呑みとして挑戦しているのは「碧がかかった黒色の地に、乳濁などの3種類の釉薬を重ねがけをする」作品です。
例えば三種類の釉薬を重ねがけをして発色を得るためには、単に三種類の釉薬を使うだけではうまくいきません。下地の釉薬に直接目的の釉薬をかけると、釉薬同士が混ざり合ってしまい、きれいな発色を得ることが出来なくなるからです。
ですので下地の釉薬と発色させる釉薬の間にそれぞれ別の釉薬をかけていきます。
しかしながら、それぞれ釉薬同士の相性がある上に、釉薬の中にはカイラギを消してしまうものもあるためになかなか簡単にはいきません。
それでも黒と白のはっきりとしたコントラストに加えて、微妙な色を表現してみたい、と思っています。
いつになるかわかりませんが、会心の作をお届けすることができたらと思います。
(2008.11.08 土曜日)
【啓蔵の近況】2014年2月 啓蔵お気に入りの作品 ぐい呑み「啓蔵虫喰い」
3月1日に、陶芸家 萩原啓蔵は87歳になりました。
少々耳が遠くなり、足が痛いことも多いようですが、作陶への意欲はまだまだ尽きないようです。
今回もお気に入りのぐい呑みについて語ってくれました。
『地の黒い釉薬にも、上からかかる乳濁の釉薬にも虫食いが出ているところが、なによりも違うと即答されました。
これがどんなにむずかしいことか、これが出たときどんなにうれしかったことか…
と語りながら、愛おしそうに、この作品をじっとみつめる啓蔵を見て、本当に思い通りの作品が出きたうれしさが伝わってきました。』
啓蔵は何度も、本当に何年も苦労を重ねてやっとできた作品、と言っていました。
一見シンプルにもみえる作品ですが、実は、何層にもかけた釉薬が融合して美しさを醸し出しています。
作品をみつめる陶芸家の眼差しは、作品への愛情が溢れているような気がしました。
(2014.03.08 土曜日)